「ADIに参加して」:ジェームズ・マキロップさんの感想

<訳者注>

この感想は、今春京都で開催された第32回国際アルツハイマー病協会(ADI)国際会議の翌日に行われたNHKフォーラム(2017年4月30日、大阪)のために、ジェームズさんが自ら手書きで用意した読み上げ原稿です。日本での反響を知り、「公開するならば、きちんとした文章にしたい」という思いから、ご自身で加筆を施しました。元々の原稿では、●印までをひと続きに読み、そこで逐次訳を入れるように
工夫してあるため、その印はあえて残しました。


私は世界のいろいろな認知症会議に行きましたが、今回の日本の会議が明らかに一番でした。そのように口で言うのは簡単なことですが、みなさんは「どうしてですか?」と尋ねるかも知れません。この会議はどこが違っていたのでしょうか。それは、認知症の本人としての私のニーズに対応していたのです。会議場は気ぜわしい都市部の会議センターではなく、美しい環境に囲まれていました。●

私は過去に参加した会議でも、すばらしい発表を見たことはありますが、中には頭がぼうっとしてしまい、発表者が何を言っているのかわからず、退出したこともありました。その発表も良いものであったのかも知れませんが、「科学に通じている聴衆」に向けたものでした。たとえ発表要旨はすばらしくとも、一般の参加者向けではなく、科学的な興味に限定した発表であることは明言されていませんでした。図や表やフローチャート、多すぎる詳細説明は大きな負担になります。一般の人は読んでも理解できずに、自分はちっぽけな存在だと感じてしまいます。●

発表者の中には、認知症の人について説明をするときに、見下した表現を使う人もいました。これについては、私は2001年からキャンペーン活動を展開しています。しかしそれよりも重要なのは、その議論の対象となる人びと、つまり認知症の人の数が、あまりにも少なすぎたことです。今回の会議には、世界中からたくさんの認知症の人が参加しました。その数が参加規模を物語っています。●

やがて認知症の人は自ら発表し始めるようになりましたが、発表に与えられたのは、いつも最終日の一番おしまいの枠でした。その時間になるころには、多くの参加者は飛行機に乗って家に帰ってしまっていました。ごくわずかの人たちしか残っていなかったのです。私たちの大事な発言を、多くの人が聞き逃しました。どうして私たちの出番はもっと早く来なかったのでしょう? なぜ私たちは議題のトップでなかったのでしょう? 会議主催者は私たちに対して、少しも自信が持てなかったのでしょうか?●

認知症の “トモ(丹野智文さん)“がADI国際会議の開会を行うことを、そして発表し、わくわくするような分科会の座長を務め、専門家として立派な態度を示すことを、二年前の日本で、いったい誰が信じていたでしょうか? 認知症がなくてそのような功績を上げた人ならば、私も何人か知ってはいます。●
私はくり返して言います。「一体誰が、そうなると信じていたでしょうか?」●

それによってメディア関係者の目が開きました。認知症の人でも今のスキルを保持し、新たにスキルを身につけられことがわかったのです。メディアの方たちにとっても開眼するのは大変なことですから、これはお手柄だと思います。
そのようなわけで、私は”トモ(丹野さん)“をこれまで支援し、これからも支援していこうという方たちに、心から感謝したいと思います。世間一般の意見がまだ向かい風だったときに、その方たちが勇気ある一歩を踏み出したことは、賞賛されなければなりません。その努力と信念、先見の明が正しかったことは証明されました。うまく言葉にできませんが、私はみなさんを高く評価しています。●

認知症の人はすぐに疲れてしまいますので、リチャード・テイラー・ルームでくつろぐことができて、ありがたかったです。そこにいた笑顔の女性たちにもお礼を言いたいと思います。何かあれば助けてくださいました。どうやら言葉の違いは、私たちを分断する壁にはならなかったようです。他にも、部屋に飾りつけをされた女性たちがいました。再びお会いすることはありませんでしたが、私はそのやさしさに感謝しています。その方たちが部屋に置いていった小さなプレゼントは、手作りの品だろうと思います。また、部屋から見た外の眺めは抜群でした。私たちはゆったりくつろぎ、リフレッシュして、また会議に戻ることができました。部屋はもちろん静かで、メイン会場の喧騒から離れていました。●

今度の会議では、自分で足を運んだ分科会は、どれもすべて楽しみました。発表者は内容に通じていて、明瞭かつ的確に発表したので、メッセージがよく伝わりました。私は多くのことを学びました。他の参加者も同じだと思います。●

みなさん一人一人のお名前をあげることはとてもできませんが、ADI会議の成功はとても多くの親切な人びとによるものに他なりません。それはみなさんがよくわかっていることでしょう。本当に立派な働きをされました。
最後になりますが、私は認知症で記憶力が乏しいにもかかわらず、みなさんから、そして会議参加者から受けた感銘はずっと残っています。決して忘れることはないでしょう。スコットランドに帰るときには、私の一部を日本に残していきます。それは私の心のひとかけらです。日本は、自分に誇りを持ってください。